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泌尿器・肛門 肛門のかゆみ
肛門やその周辺のかゆみには、疾患で起こるものと、疾患に関わらず肛門付近の汚れや汗による刺激などによって起こるものがあります。これらのかゆみを耐え切れずにかきむしるようなことがあると、皮膚に湿疹やかぶれを引き起こす原因にもなります。
誰もが一度は感じたことのある肛門のかゆみの多くは、排便後の拭き残しによるものです。しかし、肛門の内側にむずがゆさを感じるときは、直腸に便が残っていることが考えられます。肛門の内側に残った便が刺激となってかゆみを引き起こします。
高温多湿の環境は汗が出やすくなります。汗の量が増えていくと、皮膚にある汗の通り道や出口が詰まり、汗が体の外に排出されず周辺の組織を刺激してかゆみや炎症反応が起きることがあります。夏の暑い時期に締め付ける下着をはくことで蒸れたり、赤ちゃんではおむつの刺激によってかゆみが起こります。
肛門のかゆみの原因として、かぶれとも呼ばれる接触性皮膚炎やあせもなどが考えられます。ぎょう虫症や外陰膣カンジダ症、尖圭(せんけい)コンジローマでは肛門やその周囲がかゆくなります。また、痔ろうや痔核(イボ痔)の進行によっても肛門や肛門の周辺にかゆみを感じます。
肛門付近の血管がうっ血を起こし、それがイボ状の塊になるのが痔核です。イボから出る血液や粘液で肛門の周囲がベタベタし、かゆみをともなうことがあります。痔ろうは、下痢などによる肛門周囲の傷が細菌に感染して炎症が起こり、膿が溜まり、激しい痛みが生じます。溜まった膿が皮膚を破って外に出ると、下着が膿で汚れて、かゆみを感じることがあります。
子どもに多くみられる疾患で、ぎょう虫という寄生虫が口から入ることで感染します。とくに目立った症状はありませんが、肛門付近にかゆみが起こり、かきむしってしまう子どももいます。子どもの場合、肛門部をかいた手を口の中に入れてしまい、ぎょう虫の卵が体の中に入って再感染を起こすこともあります。ぎょう虫は夜になると肛門から這い出し、肛門の周りに卵を産みつけるので、かゆみは夜に起こります。
主に薬品や化粧品、衣類など触れたものの刺激によって起こり、皮膚がかぶれ、かゆくなります。肛門やその周辺のかゆみの原因としては石鹸や下着の刺激、生理用品などが考えられます。また、赤ちゃんのいる家庭では一番身近なのが、オムツかぶれです。便や尿の回数が多い新生児や、下痢のとき、長時間おむつをつけっぱなしにしていることで、赤いブツブツなどの炎症を起こします。
この疾患は、女性と男性では原因も症状も異なります。女性は主に過労や妊娠などによって体力や抵抗力が落ちたときに、膣に棲んでいるカンジダ菌が異常に増殖して起こります。性器が赤く腫れて強いかゆみを感じ、チーズや酒かすのような白いおりものが出ることが特徴です。男性はカンジダに感染している女性との性交渉によって感染し、症状が出ないことがほとんどですが、まれに性器にかゆみやただれ、水ぶくれが生じることがあります。男女ともに、性器だけではなく肛門周辺にもかゆみが起こることがあります。
子宮頸がんの原因となることで知られているヒトパピローマウイルスに感染することで起こります。主な感染原因は性行為で、男女ともに性器や肛門の周辺に、薄いピンク色をしたニワトリのトサカや乳頭の形のようなイボができます。このイボは、まれに軽い痛みやかゆみをともなうことがあります。
排便後は、便をしっかりと拭きとる必要があります。しかし、やみくもに拭いていては摩擦によって肛門が傷ついてしまいます。優しく、ていねいに押さえるようにお尻を拭きましょう。よく便が毛に付着してかゆくなるという場合は、お尻用のウェットティッシュなどで拭くといいでしょう。また、排便の際には内側に便が残らないように、意識して最後まで便を出し切りましょう。
痔の大きな原因は、肛門の血行不良です。38~40℃くらいのお湯にゆっくりつかったり、シャワーでお尻を温めることで、血行を良くしましょう。また、長時間座りっぱなしや立ちっぱなしの仕事の人は、時折軽く伸びをしたり、膝を曲げ伸ばしして血行を良くするように心がけましょう。
特定の石鹸や下着、生理用品などでかぶれるようなときは、その成分や素材に対するアレルギーがあると考えられますので、、原因と思われるものの使用を避けましょう。また、下着に残っている洗剤がかぶれの原因となることもありますので、注意しましょう。
お年寄りや赤ちゃんのおむつかぶれを予防するには、こまめにおむつを交換することが大切です。また、衣類は通気性、吸水性の良い綿のものにして、汗をかかないような室温・湿度に調整してあげましょう。
かゆみを我慢することはとても大変ですが、お尻や肛門をかいたりこすったりしてしまうと治らないどころか悪化することもありますので、かかないようにしましょう。また、肛門は非常にデリケートな部分なので、温水洗浄便座で洗いすぎると皮膚が乾燥してかゆみが増すこともあります。排便後に強く拭いたり、入浴時に石鹸のついたタオルで肛門をゴシゴシ洗うようなことも避けましょう。
かぶれによるかゆみには、かゆみを緩和する市販の軟膏やクリームが有効です。塗るときは患部を清潔にして、水気を拭きとった後に薄く広げるように塗りましょう。また、痔の主な市販薬には、坐剤や軟膏、注入軟膏など患部に直接塗るタイプや、体の内側から働きかける内服薬などがあります。ただし、痔ろうは市販の薬で治療することはできませんので、必ず肛門科で診察を受けましょう。
お尻や肛門のかゆみが続くようなときや、強い炎症やかぶれがあらわれたときは、皮膚科や肛門科で診察を受けましょう。また、外陰膣カンジダ症、尖圭(せんけい)コンジローマの疑いがあるときは、泌尿器科や婦人科も受診の対象になります。万が一パートナーがこれらの疾患に感染していたときは、自覚症状がなくても感染している可能性がありますので、パートナーと一緒に診察を受けましょう。
人と寄生虫の関係は古く、西暦前10世紀のパピルスにも寄生虫が描かれているほどです。日本では、江戸時代にはすでにぎょう虫などの寄生虫が知られていました。このぎょう虫は、行政による検査の徹底や、流通の発達によって野菜や魚に卵が付着しなくなったことにともない、年々感染率が低下しています。しかし、海外旅行や輸入食品の増加によって、海外から寄生虫が持ち込まれることが増えてきたことが新たな問題となっています。人と寄生虫の戦いはまだまだ続きそうです。