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手 爪の異常
健康な爪の状態は、毛細血管の色が透けて見えるため、全体的に薄いピンク色をしています。しかし、物理的あるいは化学的な刺激や体の異常や疾患の影響を受けると、爪が変形したり、色が変化することがあります。
足の爪を深爪すると、歩いたときに体重の重さで皮膚や肉が爪の縁より上に出て巻き爪になります。靴も原因の一つで、つま先の細い靴やきつい靴を履くと足先が圧迫され、爪が徐々にとげのように皮膚にくい込み痛みを生じます。しかもその痛みを取ろうと深爪をするとさらに変形が進み、症状は悪化します。逆に、大きすぎる靴も靴の中で足が動きすぎ、爪が押されて巻き爪の原因になります。
家庭用の化学洗剤の刺激によって、爪が弱ると表面に細かい割れ目がたくさんできます。さらに進行すると、爪が割れることもあります。洗剤以外でも、マニキュアの除光液でも爪が痛みます。除光液を拭きとるときに、爪の表面の水分まで奪われ、爪が乾燥してデコボコになったり、割れやすくなります。
年をとると、乾燥したり、血行が悪くなって肌と同様に爪もうるおいを失っていきます。そのため爪の表面に縦線の筋があらわれることがありますが、これは爪のシワのようなものなので、心配はいりません。また、ストレスや不規則な生活によって血行が悪くなると、爪の表面に横線のシワがあらわれることがあります。
爪はたんぱく質でできていますから、たんぱく質が不足すると、もろくなります。また、皮膚や粘膜を健康に保つ働きのあるビタミンA、皮膚や爪の生まれ変わりや成長を促進するビタミンBが不足すると、爪にツヤがなくなったり、伸びにくくなることがあります。ダイエット中の人は、爪にうるおいがなくなるのは、このためです。
爪の表面が青白い場合は貧血、白く濁った場合は糖尿病や慢性肝炎などの内臓疾患、青紫色は心臓病などが疑われます。白癬菌に感染すると、白濁してもろくなります。爪の表面が薄くはがれ、黄色くなるようなときは二枚爪とも呼ばれる爪甲剥離症が疑われます。他にも爪の異常は爪が丸く盛り上がるばち状指、爪の周囲が赤く腫れる爪(そう)囲炎などがあります。
爪の周囲、とくに先端の角がトゲのように皮膚に食い込んで傷つけ、強い痛みや炎症を起こした状態が陥入爪です。足の親指に起こりやすく、化膿や出血を繰り返すため、激痛で歩けなくなることも少なくありません。陥入爪の大きな原因は深爪です。痛いからと深爪をして陥入爪を繰り返すことで、次第に爪が横方向に湾曲し、巻き爪になることもあります。
陥入爪がさらに進行して、爪が横方向に巻いている状態で、ズキズキとした激しい痛みをともないます。巻き爪は悪化すると、爪の先がぐるりと渦巻きを描くようになることもあります。巻き爪は、爪が長いときに爪甲が靴の両側から押されて先端が湾曲して起こります。また、その痛みを和らげようと深爪をすると、さらに症状が悪化します。
爪白癬は俗に爪水虫ともいわれ、爪と皮膚の間に白癬菌がすみついた状態です。足の水虫の白癬菌が足の爪にうつるケースが多くみられます。健康な爪はピンク色をしていますが、爪白癬になると爪の表面に光沢がなくなり、厚く白濁し、爪の質がもろくなります。痛みやかゆみがないので気付きにくく、放置すると症状が進行し、他の爪にも感染することがあります。また、治りにくいので早期の皮膚科への受診と根気強い治療が大切です。
爪の表面が薄く浮き上がって剥がれる、いわゆる二枚爪です。爪の先端から剥がれ始め、徐々に剥がれる範囲が広がっていき、爪が剥がれた部分は黄色っぽくなるのが特徴です。栄養不足や貧血などの原因で起こります。爪の乾燥も原因の一つと考えられており、ネイルを行う若い女性に多くみられます。
爪が丸く盛り上がると同時に、指の先端も大きく丸くなって太鼓のばちのようになった状態です。症状は親指や人差し指からあらわれることが多く、痛みはありません。肺がんや肺気腫など、重篤な慢性肺疾患や先天性の心疾患による爪への酸素の供給不足のために起こる症状の一つです。
爪の周りの皮膚が炎症を起こし、赤く腫れます。患部を押すと痛みを感じ、まれに膿が出ることもあります。原因はカンジダ菌の感染によるものが最も多く、その他に細菌の感染などがあります。水仕事が多かったり、刺激性の薬品を扱うことが多い仕事に従事している人や、マニキュアや除光液をよく使う人に起こりやすい症状です。
鉄分の不足などが原因で、酸素と結合して酸素を体のすみずみまで運ぶヘモグロビンが減少し、血液中の酸素濃度が薄くなった状態です。ヘモグロビンの数値が男性は13.0g/dl以下、女性は12.0g/dl以下になると、貧血とされています。倦怠感、立ちくらみ、耳鳴り、頭痛、めまいなどの症状の他、爪が変形して反り返り、中央がへこんだままスプーンのような曲線を描く、スプーン爪になることがあります。
糖尿病は膵臓でつくられるインスリンの分泌や作用が低下し、血糖値が慢性的に高い状態になる生活習慣病です。血糖値がそれほどたかくない初期には自覚症状はほとんどありません。しかし空腹時血糖が200mg/dl以上の高い値になると、だるさや倦怠感、のどの渇き、多尿などの自覚症状があらわれます。血糖コントロールが悪い状態が続くと爪の表面が白く濁ったり、痛みをともなわずに爪が自然と剥がれ落ちることがあります。
深爪をすると爪の下の組織が盛り上がり、爪周りの皮膚が爪にのっかるため、爪は皮膚に食い込むように伸びていきます。巻き爪や陥入爪になると、痛みを和らげるためについ深爪をしてしまいがちですが、さらに変形を強める原因となります。爪を切るときは、指の先端から少し長めに切るようにしましょう。
巻き爪や陥入爪は、靴に原因がある場合が多くみられます。ヒールの高い靴やつま先の細い靴、きつい靴はもちろん、ぶかぶかの靴などを履くと指に体重が集中してしまうため、爪が圧迫されて変形してしまいます。靴選びの際には、ファッション性だけでなく、自分の足に合った靴を選ぶことが大切です。
爪の成長速度は手足などによって異なりますが、例えば手の爪の場合、1日で約0.1mmほど伸びるといわれています。日々新しくつくられるため、綺麗な爪をつくるにはバランスの良い食事で体の栄養状態を整えることが大切です。爪の主成分となるたんぱく質の他、アミノ酸やカルシウム、亜鉛が不足すると爪がもろくなるので、意識的にとりましょう。また、貧血が長く続くと爪の色が悪くなったり、スプーンのように反るスプーン爪になることがありますから、鉄分を積極的にとるようにしましょう。
爪白癬の原因である白癬菌はカビの一種のため、湿気の多い不衛生な環境を好みます。足は毎晩洗い、タオルで丁寧に水分を拭き取ってよく乾燥させましょう。また通気性のある靴を選んだり、同じ靴を続けて履かないようにして、日中も足の通気を良くしておきましょう。さらに、爪の周りの角質は白癬菌のエサとなるのできちんと削っておきましょう。
爪のトラブルは我慢し続けるとさらに症状が進行し、治療が難しくなる場合があります。また、爪の変色や変形が重篤な疾患による場合もありますので、早めに主治医に相談するか皮膚科に行きましょう。
これまで治療が困難だった、重症な巻き爪や陥入爪。しかし最近では、「マチワイヤ」や「マチプレート」という方法で、高い治療効果が得られるようになりました。これらは、変形してももとの記憶された形状に戻る特殊な金属を用いた治療法です。病状にあわせて、ワイヤー状またはプレート状になったこの金属を爪に固定し、曲がった爪を少しずつ矯正していきます。治るまでの期間は爪の質によって異なりますが、痛みは早いうちから改善することができます。我慢せずに主治医、もしくは形成外科や整形外科、皮膚科などを早めに受診しましょう。