');
胃・腸 食中毒
細菌やウイルス、有害な物質に汚染された食品を食べたことで、下痢や嘔吐などの胃腸障害、言語障害、知覚障害、呼吸困難などを引き起こすのが食中毒です。汚染源によって潜伏期間や症状に大きな違いがあります。
細菌やその毒素に汚染された食品を食べることで食中毒は起こります。主な原因は、生肉などに生息するカンピロバクター菌やO157(病原性大腸菌)、鶏や卵などに生息するサルモネラ菌、生の魚介類などに生息する腸炎ビブリオ菌があります。さらに人の皮膚の傷口などに繁殖する黄色ブドウ球菌によっても食中毒は起こります。
代表的な原因は、ノロウイルスです。秋から冬にかけて多く発生します。カキやシジミなどの魚介類が汚染され、それを食べることで中毒症状を引き起こします。さらに自分では食べていなくても、ノロウイルスに汚染された食品を食べた人の嘔吐物や便を介して感染することもあります。
良く知られているのがフグ中毒です。フグの場合、卵巣や肝臓に含まれているテトロドトキシンという毒が食中毒を引き起こします。貝類の場合は、4~9月に発生しやすいホタテガイやイガイ、初夏に発生しやすいムラサキイガイ、コタマガイなどが食中毒の主な原因になります。
山菜による食中毒は春と秋に多く発生します。毒きのこや毒草は食用と見分けにくく、散策で摘んで食べてしまうことが原因です。例えばしいたけに似たツキヨタケ、シメジに似たクサウラベニダケ、イッポンシメジ。山菜によく似たハシリドコロやトリカブト、オオハギボウシ、大葉に似たチョウセンアサガオなどによるものです。また普段食べているジャガイモの芽や青梅の種子、ぎんなんでも食中毒を起こすことがあります。
鮮度が落ちてヒスタミンを多く蓄積した魚を食べることで食中毒を起こします。主な原因となる魚は、まぐろ、いわし、さんま、さばなどの青魚です。ヒスタミンは、これらの魚を室温に放置することなどによって、細菌が増殖し、それにともなって魚肉の中で生成されます。金属による中毒は、銅やスズによるものが代表的です。調理器具に使われている銅や、スズの溶出が原因になります。また、農薬や洗剤の誤飲による中毒もあります。
サルモネラ菌は、食後4~48時間後に40℃近い急な発熱や下痢、腹痛、嘔吐の症状があらわれます。とくに下痢は激しく、水様性の下痢が1日に20回を超えることもあります。腸炎ビブリオ菌はおよそ8~24時間の潜伏後、腹部の不快感に始まり、次いで激しい腹痛や発熱、嘔吐、下痢があらわれます。黄色ブドウ球菌は、食後1~5時間で激しい吐き気や嘔吐、発熱、下痢が起こり、まれにショック症状を引き起こすこともあります。
カンピロバクター菌の潜伏期間は、1~7日(平均2~3日)です。水のような下痢または血便、腹痛、37~38℃の発熱、頭痛、吐き気などの症状があらわれ、風邪と間違われる場合も多くあります。O157(病原性大腸菌)の潜伏期間は1~14日(平均3~5日)と、非常に長いことが特徴です。主な症状は下痢や腹痛ですが、ときに激しい腹痛や血便をともなう下痢が起こります。
30時間ほどの潜伏期間を経て、下痢や嘔吐、吐き気、発熱の症状があらわれます。熱は高くても38℃台で、それ以上になることはほとんどありません。多くの場合、症状は1日程度で治まります。子どもの場合は嘔吐、成人の場合は下痢を引き起こすことが多いのが特徴です。
食中毒による死亡者数の半数近くはフグ毒によるものです。食後20分~3時間で唇や舌の先にしびれが出始めます。その後嘔吐に続き、手足のしびれ、言語障害や呼吸困難を引き起こし、死に至ることもある怖い中毒です。またホタテガイ、イガイなどの貝類は食後30分~3時間後に顔や手足にしびれが生じます。同じ貝でも、ムラサキガイやコタマガイなどは食後15分~4時間で下痢や嘔吐、腹痛があらわれます。
毒きのこによる食中毒の多くは、食後30分~3時間で嘔吐や下痢などの症状を引き起こします。しかしコレラタケ、ワライタケなどのように、肝・腎機能障害や異常興奮、幻覚などを起こす危険なきのこもあります。毒草は食後10分~1時間以内にのどの渇きや手足のしびれ、瞳孔が拡大するなどの症状があらわれます。トリカブトは、大量に食べると死亡することもあります。その他じゃがいもの芽を食べると、20分くらいで嘔吐や下痢をしてのどが痛みます。
鮮度が落ちてヒスタミンが蓄積された青魚を食べると、直後から約1時間後に舌のしびれ、顔面の紅潮、発疹、吐き気、腹痛、下痢などのアレルギー症状を引き起こします。金属中毒の場合は、口に入ってから30分~1時間後くらいに吐き気、嘔吐、腹痛、下痢の症状があらわれます。農薬や洗剤などは口にした瞬間、口内に苦みや刺激を感じ、その後口内やのどが焼け付くように痛み、吐き気、嘔吐などが起こります。
カンピロバクター菌とO157(病原性大腸菌)は熱に弱く、肉類など食品の中心までしっかりと火を通すことで、食中毒を予防することができます。どちらも非常に感染力が強い細菌なので、箸で生肉をつかむときは、食べるための箸とは別の物を使うなどの配慮も大切です。
サルモネラ菌による食中毒の原因の多くは、生や加熱不十分な鶏卵です。中心部まで火が通るように加熱しましょう。海水中に生息する腸炎ビブリオ菌は、真水に弱いので魚介類を調理する前には真水の流水で洗いましょう。黄色ブドウ球菌は、菌が食品内で毒素をつくり食中毒を引き起こします。調理前に入念な手洗いをしたり、手に傷があるときは絆創膏などで傷口が直接食品に触れないように注意しましょう。
ノロウイルスは、85℃以上の熱で1分以上加熱すると死滅します。60℃程度の熱では、30分加熱しても生き残るので、食品の中心部までしっかり火を通すように注意しましょう。また感染者の嘔吐物や糞便を介しての感染も少なくありません。嘔吐物などを処理するときには、使い捨てのマスクや手袋を使いましょう。
フグ毒による死亡例の多くは、自分で釣ったフグを家庭でさばいたことによるものです。フグ調理師の資格がない人が調理したフグは、絶対に食べないようにしましょう。また貝毒が検出された貝は、出荷規制措置がなされて市場には出回らないようになっていますので、なるべく市販品を食べましょう。
毒きのこや毒草は、食用のきのこや山菜とほとんど見分けがつきません。素人判断で食べることは危険ですから止めましょう。またじゃがいもの有毒成分は熱にとても強いので、食中毒の原因となる芽を取り除き、皮を厚めに剥きましょう。
鮮度が落ちた青魚を食べることで起こるヒスタミン中毒を避けるには、魚を低温保存し、早く食べることが一番です。しかし、まれに流通の段階でヒスタミンが蓄積されていることがありますので、食べたとき舌先にピリピリとした刺激を感じるようなら、食べるのを止めましょう。銅製の調理器具を使うときは、サビや大きな傷がないか確認したうえで使い、長時間食品を入れたままにしないように注意しましょう。
食中毒の原因となる食品を調理した器具を殺菌消毒し、二次感染を防ぎましょう。最も注意すべき二次感染は、嘔吐物などを介して感染するノロウイルスです。嘔吐物や便が付着した床やトイレ、衣類はしっかりと消毒しましょう。家庭用塩素系漂白剤を0.1%に薄めた液体での消毒が効果的です。
食中毒による激しい下痢が続くと、脱水症状を引き起こすこともあります。また原因食品によっては呼吸困難、ショック症状などを起こすこともあります。腹痛や吐き気、下痢など食中毒と思われる症状が出た場合は、すぐに主治医や内科、消化器科、感染症科の診察を受けましょう。
食中毒を起こす細菌は室温で増殖することが多く、O157(病原性大腸菌)にいたっては15~20分で約2倍になります。購入後はなるべく早く冷蔵庫で保存しましょう。また細菌は冷凍しても死にません。細菌を死滅させるには、何よりも加熱が重要です。中には熱に強い菌もありますが、ほとんどが85℃以上の熱で死滅します。加熱の際の注意点は、中心部までしっかりと火を通すことです。とくに冷凍状態のままいきなり高温で調理すると、中まで十分火が通らないことがありますので、低温からじっくりと調理しましょう。