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皮膚(顔) 顔が歪む・表情が変わる
顔の表情は、言葉を使わずに喜怒哀楽を表現する手段として、非常に大切なものです。意識していないのに顔が歪んだり、表情が変わるようなときは、顔や脳の神経に異常があることが考えられます。
顔にある目や口、鼻、耳などを動かす表情筋は、骨と皮膚に繋がっており、いくつかの筋肉が相互に働くことで、そのときの感情や情緒をあらわします。しかし、ストレスが加わったり緊張したりすると表情をつくりだす筋肉である表情筋も緊張し、硬くなって表情がこわばります。
意図しない表情の変化は、主に顔の神経の障害によって起こります。顔全体や一部が歪んだり、けいれんしたりして、表情がぎこちなく、乏しくなるようなときは、筋肉や脳の神経の異常や心の問題、怪我など、さまざまな原因が考えられます。
脳神経の一つで顔のこめかみから目、あご、頬の知覚領域を支配する三叉神経に起こる痛みを三叉神経痛といいます。多くは、脳に流れる血管がこめかみで三叉神経に触れたり、圧迫することによって起こります。目、あご、頬を中心に、突然、ぴりぴりとした痛みがあらわれます。鋭く、刺すような痛みが繰り返されるため、自然に顔がこわばることが多くあります。
顔の筋肉を支配している顔面神経がおかされることによって、主に顔の片側に突然麻痺が起こり、まぶたが完全に閉じなくなったり、頬や口角がたれ下がり、口の中の食べ物やよだれが垂れるなどの状態になる疾患です。脳出血や脳梗塞による半身麻痺、帯状疱疹ウィルスの感染による神経の障害、極端に顔の片側だけを長時間冷やすことなどが原因になります。
動脈硬化や脳腫瘍によって顔の神経に障害をきたして、けいれんが生じる疾患です。けいれんは顔の片側だけに起こることがほとんどで、片側顔面けいれんとも呼ばれます。まず目の周りがピクピクとけいれんし続けて、額、頬、あごへとけいれんが広がります。さらに進行すると、顔が歪んだり、けいれんが一日中続くこともあります。緊張や過労、ストレスによって悪化すると考えられています。
まぶたを持ち上げる筋肉の力が先天的か後天的(加齢)に低下し、上まぶたがたるんで目にかぶさる状態です。物を見るときに目を大きく開こうとして額の筋肉を大きくつかうと、まゆ毛が吊りあがったような表情になります。また、無理に目を見開いたり、狭い視野で物を見ようとしたりすることで目の周りの筋肉が疲れ、眼精疲労をはじめ肩こり、頭痛などを引き起こすことがあります。
全身の代謝をコントロールする甲状腺ホルモンの過剰分泌によって、全身のエネルギー代謝が異常に高まる疾患です。20代~30代の女性に多く、驚いたような顔つきになる眼球突出、のどぼとけ下にある甲状腺の腫れ、動悸が主な症状です。その他、手のふるえ、息切れ、不眠、生理不順や無月経、発汗、体重減少などの症状もみられます。逆に甲状腺機能低下症では表情に正気がなくなり、腫れぼったい顔つきになります。
末梢神経と筋肉のつなぎ目に障害が起こり、筋力が低下して麻痺が生じる疾患です。とくに同じ筋肉を繰り返し動かしていると筋力が疲弊し、足が麻痺してうまく歩けなくなったり、まぶたが落ちてきたり、手に持ったものを落とすなどの症状があらわれます。顔の神経の障害が主な症状で、つかれてくるとまぶたが上がらなくなる眼瞼下垂(がんけんかすい)や物が二重に見えるようになります。しばらく休むと症状が回復したり、夕方に症状が悪化するのが特徴です。
免疫異常によって、皮膚が固くなり内臓が障害される難病です。初期には、冷たいものに触れると指先が蒼白から紫色になるレイノー現象がみられます。やがて手指がソーセージのように腫れて曲がって動かせなくなったり、皮膚が硬くなり、その結果、顔の表情が乏しくなります。食べ物が胸につかえたり、下痢や便秘、せき、息切れ、高血圧などを引き起こします。
土の中の破傷風菌に感染して発病する疾患で、死亡することもあります。傷口から感染して1~2週間ほどで、首筋が張る、口がこわばって開けにくくなり食べ物が飲み込みづらくなる、舌がもつれる、顔や体全体の筋肉が痛んで引きつり笑いのような表情になるなどの他に、局所的あるいは全身的なけいれん、呼吸困難などの症状があらわれます。錆びた刃物の切り傷や、細菌に汚染されたどぶ川のようなところでけがをしたときなどは要注意です。
初期の症状としては小刻みな手のふるえが最も多く、片側の手、同じ側の足、反対側の手、反対側の足と徐々に進行していくのが一般的です。さらに手足や顔のこわばり、顔は硬く無表情になり、まばたきが少なくなる症状があらわれます。動作がきわめて鈍く、また歩幅が小さくなり、歩き出しの一歩が踏み出せなくなり、前かがみで歩くようになるのも特徴的な症状です。脳内にある神経伝達物質の一種であるドパミンを放出する神経細胞が減少するために、ドパミンが不足して起こると考えられています。
大脳細胞が徐々に委縮し、思考や記憶、言語理解に関わる部分が障害される疾患です。最終的には精神機能が荒廃します。初めに昔のことは覚えているのに、最近のことが思い出せなくなるなどの記憶障害が起こり、周囲のことに興味を示さなくなります。表情が乏しく、沈んだようになったかと思うと、多弁になるなど気分の波が激しくなることもあります。症状は徐々に進行していき、やがて家族や友人が分からなくなったり、徘徊や被害妄想、幻覚などがみられるようになります。
特別な疾患がないのに、だるさや疲れがとれず、気力が低下したり、落ち込んだりして興味や楽しい気持ちを失い、それを自分の力で回復するのが難しい状態に陥るのがうつ病です。食欲の減退、睡眠障害、集中力の低下をはじめ、表情が暗くなり、しゃべり方や動作が緩慢になるなどの変化や、体の動きが鈍ったり、逆にイライラして焦る気持ちが強くなったり、疲れが激しくなるなど、心と体の双方に症状があらわれます。
顔がひきつる、顔がけいれんし痛みをともなうようなときは、主治医に相談するか神経内科で診察を受けましょう。また、表情が乏しくなるのと同時に記憶力の欠如などがみられ、アルツハイマー病が疑われるようなときは、精神科、神経科、老年科が受診対象となります。また、最近ではもの忘れ外来を開設している病院も増えており、精神科などに抵抗があるような人でも気軽に受診できます。うつ病が疑われるようなときは、心療内科や精神科に相談をしましょう。
表情筋は通常の生活では全体の約30%しか使っていないといわれています。無表情で筋肉を使わなかったり、加齢などが原因で筋肉が衰えることで、表情が乏しくなり、顔の張りも失われます。普段から、口を大きく「あいうえお」の形に動かし、口を閉じて口角を引き上げるなど、顔の体操で表情筋を鍛えて、いつまでもいい表情を保ちましょう。