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胃・腸 食欲不振
食欲不振は、食物を摂取したいという生理的な欲求が低下したり、喪失した状態です。消化器疾患をはじめとしたさまざまな疾患や過労、ストレス、薬の副作用、太ることへの恐怖、生活のリズムの乱れなど、多くの要因が食欲不振を招きます。
人間関係、仕事のプレッシャーなどの悩みや不安による精神的なストレス、過労、事故、怪我、さらには音、光、温度などの身体的なストレスが続くと、自律神経の交感神経が過剰に刺激されます。そのため、消化吸収を促進する副交感神経の働きが抑えられ、食欲が起こりにくくなります。
体のエネルギーが不足すると、脳の特定の部分が、食事をとってエネルギーを補給するように指令を出します。食欲はそのために起きる欲求ですが、運動不足によって活動量が低下すれば、補給の必要性が低下するため食欲もわかなくなります。また、睡眠不足などによる不規則な生活を続けていると、自律神経が乱れ、胃腸の不調や食欲不振を引き起こします。
高温多湿の環境が続くと体が対応できず、体温調整がうまくいかなかったり、過剰な発汗によって体の水分が不足し、夏バテといわれるような体調不良を引き起こします。自律神経の働きが乱れるため、多くの場合、消化器の機能が低下し、食欲不振に陥ります。
妊娠初期に起こるつわりは妊婦の50~80%が経験します。朝の空腹時などに気分が悪くなり、食欲不振やにおいに敏感になるなどの症状がみられ、強い吐き気に襲われたり、吐くもののない軽い嘔吐に苦しむことがあります。つわりが起こる原因は、ホルモンのバランスの変化や心理状態が関係しているのではないかと考えられています。
アルコールは肝臓で代謝されて解毒されるので、アルコールを飲みすぎる生活を続けていると、肝臓の働きが低下し、吐き気や全身の倦怠感などがあらわれ、食欲もなくなります。胃や膵臓にも負担がかかり、炎症を繰り返しているうちに機能が低下して、吐き気や食欲不振などを引き起こすこともあります。
加齢とともに運動能力が低下して、運動不足が慢性化することが多くなってきます。また義歯による噛みづらさや亜鉛の摂取不足による味覚障害など、これらの要因が食欲不振を増幅します。さらにお年寄りの一人暮らしやうつ傾向などの精神的な孤独感も食欲不振の要因の一つになります。
胃腸や肝臓、胆のう、膵臓などの消化器に炎症や潰瘍、腫瘍などの疾患が起きたときや、胃下垂・胃腸虚弱により機能が低下したときに食欲が低下しやすくなります。消化器以外では、さまざまな臓器の悪性腫瘍、心不全、腎障害、甲状腺機能低下症、脳出血などの脳の疾患、風邪やインフルエンザなどの感染症の他に、神経性食欲低下やうつ病などの精神的な疾患など、多くの疾患が食欲不振の原因となります。
原因の約8割がピロリ菌の感染によるものですが、その他、非ステロイド性抗炎症薬の副作用や慢性的なストレスなども原因になると考えられています。胃の粘膜が弱まり、炎症が繰り返されて治りにくくなっている状態です。腹部膨満感、胃もたれ、胃痛、胸やけ、吐き気、げっぷなどの症状が慢性的に繰り返され、食欲不振に陥ります。また、胃潰瘍に進行することもあります。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、ピロリ菌や非ステロイド性鎮痛剤、ストレスなどが主な原因で起こると考えられています。強い胃酸と消化酵素によって胃や十二指腸の粘膜が局所的に欠損する疾患です。胃潰瘍は食事中から食後にかけてみぞおち周辺に重苦しい痛みが起こりますが、十二指腸潰瘍は早朝や空腹時にみぞおち周辺がシクシクと痛み、食事をとると治まるのが特徴です。共に胃もたれや吐き気、食欲不振をともないます。
胃がんは、日本人に非常に多いがんで、それにはピロリ菌の感染率と塩分の多い食生活が関係していると考えられています。初期はまったくといっていいほど自覚症状がなく、みぞおちの痛みや膨満感、食欲不振、吐き気が出てきたころには疾患が進行している場合が多いのです。胃がんが進み、粘膜が破壊されると黒褐色の吐血や下血を起こすようになります。それにともない、貧血症状があらわれることもあります。
風邪のウイルスが侵入すると、体がウイルスを排除しようと免疫機能を活性化させます。そのため、発熱やだるさ、倦怠感が起こり、消化機能が低下して食欲が減退することもあります。その他、頭痛、頭重感、鼻水、鼻詰まり、咳などの呼吸器症状もあらわれますが、風邪は1週間程度で治るのが一般的です。
インフルエンザウイルスの感染によって起こります。突然39℃前後の高熱が出るとともに、筋肉痛や関節痛、倦怠感、頭痛、食欲不振などの全身症状と、鼻水、くしゃみ、のどの痛みなどの風邪症状があらわれます。発熱はときに40℃以上にもなることがあります。
免疫の異常によって、甲状腺ホルモンの分泌の低下が起こる疾患です。無気力感、疲労感をはじめ、皮膚の乾燥やまぶたの腫れ、しゃがれ声、暑さや寒さの感覚が狂う、発汗減少、便秘などの症状があらわれ、食欲不振が起こります。
肥満に対する恐怖心から極度のカロリー制限をしたり、指でのどを刺激して食べた物を吐いたり、下剤の乱用などによって標準体重の20%以上も体重が減少することがあります。女性の場合は3カ月以上無月経が続くこともあります。思春期の女性に多く、やせていくことを喜び、元気で活動的なのが特徴です。神経性食欲不振症と拒食症はどちらも栄養障害に陥りますが、とくに拒食症はさらに強く摂取拒否をするため、極度な栄養障害にいたり、最悪の場合は死を招くこともあります。
特別な疾患がないのに、だるさや疲れがとれず、気力が低下したり、落ち込んだりして興味や楽しい気持ちを失い、それを自分の力で回復するのが難しい状態です。多くの場合、食欲不振や睡眠障害、集中力の低下、体の動きが鈍るなど心と体の双方に症状があらわれます。
体内に亜鉛が不足した状態で、味覚障害により、食欲不振があらわれます。その他、皮膚炎、脱毛症、生殖機能の低下、糖代謝異常などさまざまな障害があらわれ、感染症にもかかりやすくなります。亜鉛の摂取不足や消化器疾患による亜鉛の吸収障害、腎臓の疾患による亜鉛の排泄増加などによって引き起こされます。
結核や自己免疫の異常などにより、副腎皮質ホルモンの分泌が低下する疾患です。疲労感、食欲不振、体重減少などがあらわれ、皮膚に色素沈着が起きて顔や手の甲などが黒くなったり、口の粘膜に黒いしみができるのが特徴です。頭痛、めまい、下痢、吐き気や嘔吐などの他、性欲減退をもたらすこともあります。
夜ふかしをしたり、朝食を抜いたりすると体本来のリズムが狂い、自律神経のバランスが乱れて食欲が低下します。1日3食、できるだけ決まった時間にとり、早寝早起きの習慣をつけて、生活のリズムを整えましょう。とくに食欲不振を招きやすい夏バテを防ぐには、疲れを溜めないことが一番です。寝る前にぬるめのお風呂につかり、暑くて寝苦しいときは頭部を氷枕で冷やすと、深い眠りが得られて疲れが解消します。
精神的なストレスが続くと、食欲不振に陥りやすくなります。ストレスの元になっている悩みや不安は、誰かに相談するなどして早めに解決することが大切です。また、家に帰ったら、読書や音楽鑑賞など、自分の好きなことをして気分転換をはかり、短い時間でもリラックスできるひとときを過ごしましょう。
体を動かすと、エネルギーが消費されるだけでなく、気分もすっきりし、自然に食欲がわいてくることも少なくありません。また、定期的に運動を行うことで生活のリズムも整い、食欲を感じられるようになります。ウォーキングなど、マイペースでできる運動を続けましょう。
アルコールの飲みすぎは胃や肝臓などに負担をかけ、食欲不振を招きます。アルコールを飲むときは適量を守り、週に2日はアルコール抜きの休肝日を設けましょう。また、空腹状態で飲むと胃の粘膜が刺激され胃炎などを引き起こしますので、つまみ類を食べながらゆっくりと飲みましょう。
食欲のないときは、消化の良い食べ物を少しずつ食べることが大切です。とくに食欲が減退しがちな夏は、量より質に重点を置き、疲労回復に効果的な玄米、豚肉、ウナギ、豆類、ねぎ、山芋などをとり入れましょう。家族や仲の良い友人とテーブルを囲んだり、食材の配色や盛りつけなどに工夫をすることで、食欲が出てくることもあります。
食べすぎ飲みすぎなどが原因で胃腸の調子が悪く食欲がないときは、市販の胃腸薬を服用してみましょう。ストレスなどで気分がふさぎ、胃腸の症状や食欲不振が起きている場合は、健胃消化作用のある生薬が配合された漢方処方の胃腸薬が効果的です。
胃腸の不具合をともなう食欲不振が長引く場合は、内科や胃腸科、消化器科を受診しましょう。神経性食欲不振症の場合は家族が気を配り、心療内科で相談してみましょう。
食欲のないときにも、カレーなら食べられるという人が多いのではないでしょうか。カレーに用いられる代表的なスパイスは、カレーの色の素となるターメリック(ウコン)、辛さを出すチリ、ペッパー、ジンジャー、主に香りづけのためのコリアンダー、クミン、フェンネル、クローブ、カルダモン、ナツメグ、シナモンなどで、風味づけにガーリックも使います。これらの多くは漢方薬に用いられる生薬。体を温め、胃腸の働きを高めて食欲を増進させる効果のあるカレーは、食欲不振のときの強い味方です。ただし、辛すぎるカレーは逆に胃の粘膜を刺激しすぎて胃炎を招くこともありますので、辛さはほどほどにしましょう。